2020年の「赤毛のアン」

赤毛のアン が大好きだ。作品について語り出すと、たいていの場合、自分の感情をコントロールできなくなる。あとで「ああ、また相手を引かせてしまったな」と後悔することが多い。まあ、いい歳のおじさんが「赤毛のアン」の魅力を熱弁しだしたら、ふつう引いてしまうだろう。

けれど今日はアンについて書かないわけにはいけないように感じてこのエントリーを書いている。うまく書けるとよいのだけど。

今年2020年は「Anne of green gables」出版から112年になるそうだ。昨年はアニメシリーズ「赤毛のアン」放映40周年だった。

アンの日本語訳書は百花繚乱だ。ファン層の厚みを感じさせる。

朝の連ドラ「花子とアン」のモデルになった村岡花子訳(新潮文庫)が有名だが、口調は時代を感じさせる。また、省略箇所が多いことでも知られる。

アニメ版の底本は原作に忠実に、と神山妙子訳が選ばれたそうだが、神山訳だと「アンの青春」までの2冊しか入手できない。

読みやすい現代口語シリーズを揃えるなら掛川恭子訳版(講談社文庫)がよいかもしれない。2019年には松本侑子さんによる完全訳版(文春文庫)が出版され、文化背景や植物に関する詳細な注釈はファンたちを大いに驚かせた。現在も新刊が発売されてている。ぜひ松本さんが全アン・ブックスを翻訳し切ってほしい!

アニメ版のオープニング曲「きこえるかしら」の作詞をされた岸田矜子さん訳版というのもあって、読み比べもたのしい。

映像作品も活況を見せている。

モンゴメリの孫娘になるケイト・マクドナルド・バトラーさんが製作総指揮していたカナダ映画「赤毛のアン」3部作の完結編が2018年秋に公開されている。

またカナダCBC製作のTVシリーズ「Anne with an E」(日本語タイトル「アンという名の少女」)は、現代の社会問題(貧困、いじめ、詐欺や搾取、人種差別、LGBTなど)をアンの物語に付加するという、かなり実験的な「アン」なのだが、人気を博している。日本ではNetflixで視聴可能だ。2020年1月からシーズン3が公開されていて、アン役のAmybeth Mcnultyはカナダのアカデミー賞でのPeople’s choiceにノミネートされている。

・・・世紀を超えて、世代を超えて、国境を超えて、メディアを超えて、性別を超えて、アン・シャーリーの物語は、人々を魅了しつづけているのだ。


ドリームチームのアニメ「赤毛のアン」

日本では(とくに50〜40代において)、TVアニメシリーズ「赤毛のアン」の存在が大きかったのではないかと思う。わたしは孤児としてカスバート家にやってきたアンとちょうど同じくらいの歳ごろにアニメで知り、ハマった。性別こそちがったが、ちびっこでひょろひょろしてるところ、大人相手におしゃべりが止まらない癖、荘厳な言葉が好きという性癖(笑)、かんしゃく持ち、想像力によって現実を書き変える能力によって孤独を埋めるキャラクター・・・自分に重なった。

当時は知る由もなかったが、このアニメシリーズ、その後「日本アニメの巨匠」と言われる人々が集ったドリームチーム作品でもあった。

監督は「火垂るの墓」「かぐやの物語」の高畑勲氏。キャラクターデザインと作画監督を「耳をすませば」「魔女の宅急便」の近藤喜文氏、あの宮崎駿氏は1〜15話にレイアウト(画面構成)で参加すれば、富野由悠季氏も一部作品に絵コンテに参加している。

宮崎氏は映画ルパン「カリオストロの城」のため富野氏はテレビアニメ「ガンダム」制作のために途中降板していのだが、美術の山本二三氏、色彩設定の保田道世氏などの顔ぶれもあるから、雑にまとめると「ジブリの主要スタッフに富野カントクまで参加した作品」ということになる。

そんな作品が、なんと今日2020年4月6日から、東京MXテレビで毎週放映される。
パンデミック禍の中ではあるが、家で楽しみたい。

宮崎駿がレイアウトを、富野由悠季が絵コンテを切っている例。第15話「秋のおとずれ」。後の巨匠ふたりがありえないコラボをしている回と言えるのだが、作品は極めて地味、というところに逆に好感する。

 

 

キャラクター造形への高畑監督のこだわり

高畑監督はこだわりがものすごい監督として知られている。アニメ化当時「原作に忠実に」と神山妙子さんの訳本を底本に選んだことからもその一端を伺えるが、そのこだわりはアンのキャラクターデザインにもよく現れている。

「骸骨のように痩せて、尖った顎。ゆったりと広い額、気迫に溢れた大きな目、そばかすだらけの青白い肌、大きな口。」

モンゴメリが描写するアンの風貌の設定をその後小説で読んだとき、アニメのキャラクターデザインそのままだ! と感じた。

誰もが褒めるような、ぱっと見のかわいらしさや美しさはない。自己肯定感が低く、そのくせ癇癪持ちというある種の「ヤバさ」を抱えてる女の子。けれど、風景や人について言葉のスケッチを始めると他の人には真似できない才能を披露し、みんなを魅了する。そして物語の進行とともに、アンは様々な経験を経て成長し、変身し、誰もが認める美しい女性になってゆく。

これについては高畑監督がこんなことを明かしている。

あれは、僕が彼(キャラクターデザインの近藤喜文氏)に必死であの顔にしてもらったわけです。つまり、骸骨のように痩せてて、目だけ大きくて、そばかすで、隣人のリンド夫人に「凄い子だねえ」と言われるような変な女の子の顔でなけりゃならない。それでいてどこか不思議な魅力もあり、骨格としては将来は美人になる顔でなくてはならないわけです。たいへんな注文ですよね(笑)。でもちゃんと、あのシリーズを見ていると、だんだん美人になっていくでしょう。

ジブリミュージアム「赤毛のアンを語る」

 

実写映画やミュージカルでも「赤毛のアン」は人気なのだが、アニメのアンから原作に入ってアンの風貌についての脳内イメージが固まってしまうと、「おやっ?」と違和感を覚えてしてしまう作品が多いことに気づく。アンを演じる少女のなかに「不安定さ」や「ヤバさ」がないキャスティングがされているときだ。

アンが空想家なのは誰もが知っていることだが、その根っこにはアンの「壮絶なコンプレックス」があるからだ。

ところが実写映画やミュージカルなどでは、見た目にかわいらしい、キュートな少女がキャスティングされていることが多い。モンゴメリの孫娘が監督した映画ですら、ただただ愛らしい少女がアンを演じている。

商業目的のエンタメ作品だから仕方ないよね? と言う気持ちも理解するけれど、「いやいやいや、アンって、そうじゃないでしょ?」と、しらけてしまうのがファン心理なのである。

あの近藤喜文氏ですら、最初は可愛らしい女の子としてアンをデザインしてしまい、監督にダメ出しをもらってあの形に落ち着いたのだという。

・・・と書いていたところで、アン役の山田栄子さんがこんなツイートをされていた。監督は「変な声」とおっしゃっていたのか。声についての言及は覚えがないけれど、「個性的な声」を探していたのかなと想像する。今晩アニメを観ながら、あらためて高畑監督に喝采を送ろう。

原作に忠実なキャステ、という点では、Netflixの「Anne with an E」のアミベス・マクネリーさんもすごいのですよ! 物語にはかなり大胆なアレンジが施されているのだけれど、人物像については原作に忠実にキャスティングしたのかもしれない。もしかしたらアニメ版のアンを参考にしたのでは? とも思わないではないけれど。

このドラマの基幹制作陣は女性オンリーのチームなのだそう。だからなのか、はてしなく映像が絵画的で、女の子は力強く、男性たちも美しい(笑)。

 

アン・ブックスの魅力について

アンについて語ると、どうしても、孤児院から引き取られてきたばかりのアン─「赤毛のアン」の物語をイメージするのだが、高校での生活(「アンの青春」)も大学での生活も(「アンの愛情」)ものすごく魅力的で、読み出したら止まらない。

アンの同級生になったり、アンの隣人になったりしながら、ワクワクドキドキの世界から出てこられなくなる。

アンが先生になり、ギルと結婚した後も、子供たちが成長する物語も温かく、すばらしい。幸福な一家の物語が続いたあとに読むことになる「アンの娘リラ」では第一次世界大戦が勃発。一転、息子たちが出征してしまう悲しい物語になるのだが、最後の最後のリラの一言に読者が萌え殺される。あのラノベ的展開はなんだろう? モンゴメリは未来人(現代人)だったのかな、と思わないでいられない。 

ついでに言うと、わたしはアンがほとんど登場しないアン・ブックスも、ものすごく好きだ。1800年代終盤から1900年代、世界大戦前まで(日本の明治の後期から大正)にかけての時代の人々の、つつましく、近所界隈の人々とのにぎやかな暮らしぶりをていねいに、ていねいに描いている。

年齢差の恋愛、芸術が持つ力を伝える小品、年配の男女の恋物語をテーマにした物語も多数ある。これは本当に100年前の話? と、驚く。


『アンの友だち』の「フェリックス・ムーアのバイオリン」「小さなジョスリン」は鳥肌モノ。『アンをめぐる人々』の「入江の結婚式」「海から来た子」「ベティーの教育」は繰り返して読んでも、涙と感動なしでいられない。

個人的には山田栄子さん(アンを演じられた声優さん)によるアンブックス全シリーズの朗読Audio Bookが欲しい。ものすごく欲しい。スマホで、ずっと聴いてたいよ。

どこかアンの版元の出版社さんが企画・制作しないだろうか? 

アニメのアンもNetflixのAnne、どちらも楽しみだ。

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