Wirelessブロードバンド遠距離恋愛

汐留の共同通信ビル1F「NEWS Cafe」はHOT SPOTと電源コンセントが利用できるお気に入り「仕事カフェ」のひとつ。
今日はたまたま奥の方に座ったのだが、そのさらに奥の席にノートパソコンにWEBカメラを付け、ボソボソとVoIPチャットしている若いサラリーマン風の男性がいた。
ひそひそひそ、と小声で話しては、カチャカチャカチャとキーボードも使ってチャットしているのだ。
そのそぶりと、隠れるような場所に陣取っているあたりが妙に怪しく、ちらり覗き見てみると、どうも海外にいる恋人とIPチャットしている?らしい。
画面には黒いタンクトップ姿の、聡明そうな若い女性の顔が写っていて、暗い部屋の中、タオルのようなもので涙を拭いているように見えた。

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「にんげん」

中学のとき「ニンゲンさん」と呼ばれる先輩がいた。
もちろん、あだ名である。
正確に言うと、変化したものらしかった。
元のあだ名は「怪物くん」。
賢明な読者はもう、だいたい想像がついたかもしれない。
眉の乗る骨が前にせり出し、眼のあたりが窪んだ骨格、大きな瞳と長いまつげ。
今思えば、彼はドイツ人サッカー選手のような顔つきをしていた。
それを「ヨーロッパ人っぽい」と取るか、「フランケンシュタインっぽい」と取るかなのだが、他人をほめるということを知らない北陸の田舎町の中学生たちのことである。彼は「フランケン」と呼ばれることになった。
ところが子供たちにとって「フランケン」という名前は、別のキーワードを想起させた。コロコロコミックで育った最初の世代。藤子不二夫先生作品の影響が大きかったのである。
彼のあだ名は、間もなく「怪物くん」に変わった。
自意識が過剰に花開く思春期ど真ん中の少年が「怪物くん」と呼ばれて気持ちいいわけがない。
「おい、怪物くん」
「なあ、怪物くん」
「なにやってんだよ、怪物~!」
栗の花くさい厨房男子としては、無垢なプライドを日々ぼろぼろにされる気持ちだったろう。
彼は次第に、容赦のない、この性根のねじ曲がった友達たちには言うべきことを言わなくてはダメなのだと思うに至った。
そしてある日、決意し、叫び声を上げたのだった。
「俺は、…俺は、”怪物”なんかじゃなああああい!」
裏日本の田舎町の少年としては喝采に値する武勇伝だ。
ぼくがもし彼の立場だったら、そんな風には言えなかっただろう。
しかも彼は、アイデンティティを主張することも忘れなかった。グレートとしかいいようがない。
「俺は、俺は……ニンゲンなんだあああ!
それまで「怪物」呼ばわりしていたまわりの子供たちは、子供たちなりに彼の勇気を受け止めた。
その証拠に、もう誰も彼のことを「怪物くん」と呼ぶことはなかった。
その日から彼は「ニンゲン」と呼ばれることになったからだ。
「おい、ニンゲン」
「なあ、ニンゲン」
「なにやってんだよ、ニンゲン~!」
そして、こんどは律儀な後輩たちが、わけもわからず彼のことを「ニンゲンさん」と呼んだ。
ぼくらにそう呼ばれるとき、彼は、力なく微笑んでいたように見えた。
1981年。マイケルジャクソンが田舎町でも流行りだした頃の、ほほえましくも残酷な物語である。
さて、そんなわけで今回は船井幸雄さんの「にんげん」という書籍の紹介だ。
もちろん「ニンゲンさん」とは何の関係もない。

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